就業規則や社内規程の改訂では、追加された文章だけでなく、削除、表記変更、参照条文のずれまで確認する必要があります。担当者の目視だけに頼ると、版の取り違えや確認範囲の抜けが起こりやすくなります。
要点
- 比較する文書名、版、日付、承認状態を確定してから新旧差分を取ります。
- AIは追加、削除、表現変更、参照ずれ、別表変更の候補を示し、適法性を判断しません。
- 原文、公式資料、社内の変更意図を有資格者が照合し、確認者と未確定事項を残します。
AIは新旧文書の差分候補を整理する下準備に使えます。ただし、変更の法的な意味、適合性、手続きの要否を確定する役割ではありません。最終判断は担当する有資格者が、原文と公式情報を確認して行います。
この記事は富士市の小規模な士業事務所を想定した一般的な業務設計です。特定の事務所や案件の事例ではなく、制度や期限を断定するものでもありません。
最初に「どの版とどの版を比べるか」を確定する
差分比較の前に、文書名、対象事業所、版、作成日、承認状態を確認します。「最新版」というファイル名だけでは、正式な比較元か判断できません。
- 比較元:現在運用している正式版
- 比較先:今回確認する改訂案
- 対象範囲:本則、別表、付属規程、様式
- 作成者と受領経路:誰から、どの方法で届いたか
- 状態:案、確認中、承認済み、施行後のいずれか
AIへ渡すファイルもこの二つに限定します。メール添付と共有フォルダに同名ファイルがある場合は、担当者が正しい版を決めてから比較します。
差分は五つの種類に分けて確認する
単に「追加」「削除」だけでは、確認の優先順位を付けにくくなります。次のように分類すると、有資格者が確認しやすくなります。
- 文言の追加・削除・置換
- 条番号、見出し、並び順の変更
- 別条文・別規程・様式への参照変更
- 数値、期間、対象者、条件に関係する変更
- 表記統一や体裁のみと思われる変更
AIが「体裁のみ」と分類しても、そのまま除外しません。読点や助詞の変更で意味が変わる可能性もあるため、原文への参照を残して人が確認します。
想定例:一部の条番号が変わった改訂案
架空の顧問先から、本則の一部を追加した改訂案が届いたとします。新しい条文が途中へ入ったため、後ろの条番号が変わり、別規程からの参照先にも影響する可能性があります。
AIには、本文の文言差分に加えて、旧番号と新番号の対応表、文書内で参照されている条番号の一覧を作らせます。担当者は次を確認します。
- 追加条文の内容と対象範囲
- 番号変更後も参照先が正しいか
- 別表や関連規程に古い番号が残っていないか
- 改訂案の内容が顧問先の意図と一致するか
- 専門判断や必要な対応が未確認のまま確定扱いになっていないか
これは確認の流れを示す想定例です。変更の適否や必要な手続きは、案件に応じて有資格者が判断します。
具体例2:育児・介護に関する社内規程の改訂案を比較する
架空の事業所で、育児・介護に関する社内規程を見直すため、現行版と改訂案を受け取ったとします。AIには、旧版と新版の該当条文、変更された語句、対象となる規程内の参照箇所、追加で照合したい別表を一覧にさせます。「新しい制度に対応済み」「このままで適法」と結論づけさせず、文書から読み取れない施行日や社内の承認状態は空欄のままにします。
担当者は、比較対象の版が正しいか、変更の意図を事業所へ確認したか、他の規程や申請書式に古い参照が残っていないかを確かめます。就業規則の作成・変更時の手続きは、事業場の状況や労働者数等に応じて確認が必要です。厚生労働省のモデル就業規則も改訂されるため、見本をそのまま採用するのではなく、現行の公式資料と個別の事情を担当する専門家が確認します。厚生労働省「モデル就業規則について」
この例で比較表が役立つのは、差分を見つけるだけでなく、「どの文書のどの版を、誰が確認し、何がまだ未確定か」を共有できるからです。
AIへの依頼文は「結論」ではなく「確認候補」を求める
就業規則・社内規程の新旧比較をしてください。
比較元:[正式版として確認済みの文書]
比較先:[改訂案として確認済みの文書]
出力:旧条番号、新条番号、旧文、新文、差分の種類、関連する参照先、確認事項。
変更の法的適合性、施行日、必要手続きは判断しない。
文書にない理由や意図を推測しない。
読み取れない箇所、表の崩れ、番号の不一致は未確認として示す。
各差分から原文の該当箇所へ戻れる情報を付ける。
PDFの読み取りでは、表、注記、ヘッダー、改ページ付近が正しく抽出されない場合があります。AIの比較結果だけでなく、元ファイルを並べて確認します。
確認表に「担当」と「判断状態」を残す
差分一覧には、重要度だけでなく、確認担当、根拠、状態を持たせます。
- 未確認:AIが抽出した段階
- 内容確認中:原文との一致を確認中
- 専門確認中:法的意味や影響を有資格者が確認中
- 顧問先確認中:意図や運用を確認中
- 確認済み:担当者と根拠を記録済み
「差分なし」という結果も、人が対象範囲を確認するまでは確定にしません。比較対象から別表が抜けていれば、本文に差分がなくても確認は不十分です。
自分専用ツールは「未確認を残せる比較表」にする
市販の文書比較機能で足りない場合は、差分を一覧化し、原文確認と承認を記録する小さな補助ツールを考えられます。
必要な機能は、文書そのものを自動で書き換えることではありません。版の組み合わせを固定し、差分ごとに確認者と状態を付け、未確認が残っている間は完了にできない仕組みです。
最初は架空の規程で試します。条番号の追加、表の変更、別表の欠落、同名ファイルの取り違えなどを入れ、適切に警告できるか確認します。本番文書への上書き機能や顧問先への自動送信は分けて考えます。
読み取りと承認後の差し替えも点検する
比較前に、目次と本文の見出し、ページ数、表の列が原本と一致するかを確認します。長い文書を分割する場合は、処理した章と未処理の範囲を記録します。読めなかった部分を削除したまま、全体を比較済みにしないでください。
承認後に改訂案が差し替わった場合、前の承認を新しい文書へそのまま付け替えません。比較対象の版を固定し、追加修正があれば再比較と再確認が必要だと分かる状態に戻します。
テストでは、通常の文言変更だけでなく、否定表現の欠落、同じ番号の別条文、別表の追加、読み取り不能のページを用意します。期待する結果は担当者が定め、AIが自分で付けた評価だけで合格にしません。
運用後は、後から見つかった差分や原文に戻れなかった箇所を記録します。処理時間が短くなったことだけでなく、確認者が根拠を追えるかを見て、手順とテストを更新します。
機密情報と保存範囲を確認する
規程には組織体制、勤務条件、個人名を含む別紙などが入ることがあります。利用するAIの契約、保存、学習利用、アクセス権、削除方法を確認し、比較に不要な情報は除きます。
正式文書の保管場所を一つ決め、AIの出力を別の正式版として扱わないことも重要です。比較結果は確認補助であり、原文の代わりではありません。
まとめ:AIは差分を見つけ、人は意味と影響を確かめる
規程比較の標準化では、版を固定し、差分を分類し、原文と根拠へ戻れる状態をつくります。AIは候補抽出と一覧化を担い、有資格者は法的適合性と影響範囲を確認します。
FUJI PRESSでは、富士市の士業事務所向けに、既存の文書管理を活かした確認手順や小さな補助ツールの設計を支援します。
運用上の確認
差分表には旧文、新文、変更種別、原文位置、影響候補、確認者、確認結果を記録します。意味が変わらないように見える変更も自動除外せず、関連規程と参照番号まで確認します。
よくある質問
Q. AIの差分結果だけで改訂できますか?
できません。版の正しさ、法的意味、手続き、関連文書への影響を有資格者が確認します。
Q. PDF同士でも比較できますか?
文字を取得できれば候補抽出は可能ですが、表、注記、画像、OCR誤りを原本で確認します。
Q. 表記変更は確認不要ですか?
助詞や句読点でも意味が変わることがあるため、原文への参照を残して確認します。
Q. 個人名を含む資料を入力できますか?
必要性と利用環境を確認し、不要な個人情報を除き、閲覧・保存範囲を制限します。