FUJI PRESS
メニュー
富士市×士業DX

士業事務所の問い合わせ対応をAIで整理する|相談前の下準備

公開日: 更新日: 著者: 渡邉 泰弘

関連テーマ: 富士市×士業DX

この記事の要点

士業事務所の問い合わせ対応にAIを活用する方法を、労務相談と相続相談の想定例2件で解説。AIに任せる整理・下書きと、人が担う専門判断・送信を切り分け、個人情報保護、運用手順、効果測定まで紹介します。

問い合わせ対応に追われていると、目の前のメールを返すだけで一日が終わってしまうことがあります。けれど、問い合わせを送る人にとって、その一通は「ここに相談しても大丈夫だろうか」と迷いながら差し出した、大切な最初の一歩かもしれません。

要点

結論:AIは「整理と下書き」まで。判断と送信は人が担う

問い合わせ対応でAIに任せやすいのは、相談内容の要約、話題の仮分類、希望日時や連絡方法の抽出、確認すべき項目の候補出し、受付返信の下書きです。

一方、次のことはAIに決めさせず、資格者や事務所の責任者が確認します。

AIは、相談者の代わりに悩みを判断する存在ではありません。担当者が相談者の言葉を見落とさず、次に何を確認するかを考えるための補助役です。

総務省・経済産業省の「AI事業者ガイドライン」第1.2版は、AIの利用目的や利用形態に応じてリスクを捉え、必要な対策を継続して行う考え方を示しています。問い合わせ整理では、入力情報の扱い、誤分類時の確認、担当者への引き継ぎ、送信前の承認などを、実際の運用に合わせて決めておくことが大切です。[1]

AIを使う前に、問い合わせ対応を4つに分ける

AIを入れる前に、現在の受付の流れを紙に書き出します。次の4段階に分けると、任せる範囲が見えやすくなります。

  1. 受け取る:メール、問い合わせフォーム、LINE、電話メモなどから相談を受ける
  2. 整理する:相談分野、希望する連絡方法、希望日、確認が必要な点を抜き出す
  3. 人へつなぐ:担当者や資格者が内容を読み、必要な確認先や対応期限を決める
  4. 返答する:人が案内内容を確認し、相談者へ返信する

AIが担当するのは主に2の整理と、4の下書きです。受付完了の自動返信を使う場合も、「相談内容を確認した」「依頼を受けた」「この期限までに回答する」と誤解される表現を避けます。営業時間外に届いた相談や、AIが分類に迷った相談は、担当者が確認するまで保留にするなど、例外時の扱いも決めておきましょう。

具体例1:労務相談のメールを整理し、確認事項をまとめる

想定する場面

富士市内の小規模な社労士事務所に、顧問先から「従業員から退職したいと言われた。何を確認したらよいか」というメールが届いたとします。担当者は、他の問い合わせや給与関連の作業も進めながら、内容を読み、折り返しの準備をしなければなりません。

この場面でAIに「退職手続きの正解を判断して」と依頼するのではなく、メール本文から、相談者が書いた事実と、まだ確認できていない情報を分けて整理させます。

AIが作る整理メモの例

AIが作るのは、このような確認用メモと質問候補までです。雇用形態や退職日をもとに法的な結論を出したり、特定の手続きを断定したりしません。実際に何を確認するか、どのような助言をするかは、担当する専門家が判断します。

受付返信の下書き例

お問い合わせありがとうございます。内容を担当者が確認いたします。差し支えなければ、従業員の方から退職希望を伝えられた時期と、現時点で確認されている内容をお知らせください。個人名や詳細な資料は、このメールへの返信ではなく、担当者からご案内する安全な方法でお送りください。

この文面も、送信前に人が読みます。担当者が確認できる前に回答時期を約束しないこと、不要な個人情報をメールで追加送信するよう求めないことがポイントです。相手の不安を受け止めつつ、次に何が起きるのかを誤解なく伝えることが、受付返信の役目です。

具体例2:相続の初回問い合わせを整理し、面談準備につなげる

想定する場面

行政書士や司法書士などの事務所へ、初めての相談者から「親の相続について相談したい。何から始めればよいか分からない」と問い合わせが届いたとします。相談者は、どの情報を伝えるべきか分からず、財産や家族関係の詳細を最初のメッセージに書き過ぎてしまうこともあります。

ここでは、AIに相続の結論を出させるのではなく、相談者の希望と連絡方法を整理し、初回連絡で必要以上の機微な情報を集めない運用を考えます。

受付から担当者確認まで

  1. AIが本文を要約し、「相続に関する初回相談」と仮分類する
  2. 相談者が希望する連絡方法、連絡可能な時間帯、面談希望の有無を抽出する
  3. 戸籍、財産、相続人の状況など、詳細情報の提出を自動で求めない
  4. 担当者が内容と事務所の対応範囲を確認する
  5. 人が、必要な場合に限り次の確認事項と安全な資料提出方法を案内する

AIの要約例:

相談概要:相続について初回相談を希望。手続きの進め方が分からず不安とのこと。
希望:まずは担当者から連絡を希望。
未確認:相談可能な日時、連絡方法、事務所の対応範囲。
注意:個人を特定する情報や財産の詳細は、初回受付のAI要約に含めない。担当者が確認するまで、制度や手続きの案内を確定しない。

初めて相談する人が本当に求めているのは、受付フォームに情報をすべて書き込むことではなく、「話を聞いてもらえる」「次に何をすればよいか分かる」という見通しです。AIで受付内容を整えるときも、相談者に不要な説明や書類提出を求めないこと、専門家と話す前に結論を決めつけないことを大切にします。

この例も、実際の受任可否や必要書類を示すものではありません。制度や業務範囲の確認、具体的な案内は、各事務所の手順と担当資格者の判断に従います。

個人情報を扱う前に決めておくこと

士業事務所の問い合わせには、氏名、連絡先、勤務先、家族関係、財産、健康、雇用など、慎重な取り扱いが必要な情報が含まれることがあります。AIに渡す情報は、目的に必要な範囲に絞り、まずは架空の相談文や個人が特定できない例で試します。

個人情報保護委員会は、生成AIサービスへ個人情報を含むプロンプトを入力する場合、利用目的の達成に必要な範囲であるかを確認し、入力した個人データが応答の出力以外の目的で扱われる可能性がある場合には、サービス提供者が機械学習に利用しないことなどを十分確認するよう注意喚起しています。サービスごとに規約や設定が異なるため、利用前に最新の条件を確認してください。[2]

IPAも、クラウドAIの利用時に営業秘密を入力しないこと、サービス規約や設定を確認することなどを利用者向けに案内しています。顧客情報だけでなく、事務所の内部資料、未公開の契約条件、アカウント情報を入力禁止にするか、明確なルールを定めましょう。[3]

導入前に、少なくとも次の点を担当者間で共有します。

導入を小さく始める5ステップ

1. よく届く問い合わせを10件ほど振り返る

個人情報を含む原文をAIに入力するのではなく、まずは事務所内で、相談分野や問い合わせの種類を人が整理します。どの問い合わせで確認に時間がかかるか、どこで担当者への引き継ぎが必要かを把握します。

2. AIに任せる処理を一つ決める

最初は「本文を3行で要約する」「相談分野の候補を出す」「不足情報の候補を挙げる」など、一つの作業に限定します。回答の自動送信や受任判断は対象にしません。

3. 架空データでテストする

氏名や連絡先を含まない架空の問い合わせ文を用意し、実際の業務で起こりそうな曖昧な表現、誤字、複数の相談が混在した文章も試します。AIが誤分類した場合に、誰が気づき、どう修正するかも確認します。

4. 人の確認と引き継ぎ条件を決める

「個別判断が含まれる」「期限が書かれている」「緊急性が不明」「回答候補に自信がない」など、担当者が確認する条件を決めます。AIの分類結果だけで、相談の優先順位や返答期限を確定しないようにします。

5. 効果と負担を一緒に測る

処理時間だけでなく、要約の修正件数、担当者への引き継ぎ漏れ、誤案内、確認にかかった時間、相談者からの追加質問も記録します。効率が上がっても、不安を強める返信や確認漏れが増えていれば、運用を見直します。

効果を測るときの指標

「問い合わせ対応が改善した」と判断するには、速さだけでは不十分です。初めて連絡をくれた人が、次の行動を理解できたか。担当者が必要な情報を見落とさなかったか。誤った約束や不要な情報収集がなかったか。こうした質の面も一緒に確かめます。

まとめ:最初の返信に、事務所の姿勢が表れる

問い合わせ対応にAIを使う目的は、相談者を分類して終わることではありません。相手の話を短く整理し、必要な担当者につなぎ、専門家が判断するための準備を整えることです。

最初の返信は、相談者がその事務所を信頼できるかを考える入口です。すぐに結論を出せなくても、「受け取りました」「担当者が確認します」「追加情報は安全な方法をご案内します」と伝えられれば、相手は次の一歩を考えやすくなります。

AIが下書きを作り、人が相手の状況を想像して読み直す。そのひと手間を省かないことが、効率化と誠実さを両立させます。まずは架空データで、要約か不足情報の整理を一つ試してみてください。もしAIが迷ったら、人へつなぐ。個人情報の扱いに迷ったら、入力しない。答えを急がず、安心して相談できる入口を整えることから始めましょう。

運用上の確認

分類に自信がない、期限が近い、金銭・紛争・安全に関わる、既存顧客と関係する場合は自動返信を止めて担当者へ渡します。AIの優先度だけで後回しにせず、未処理一覧と経過時間を人が確認します。

よくある質問

Q. AIに回答文まで作らせてもよいですか?

受付確認や必要資料の案内は下書きできますが、個別判断や見解を含む回答は担当者が作成・承認します。

Q. 問い合わせを自動で担当者へ振り分けられますか?

候補提示には使えます。利益相反、資格・担当範囲、期限、稼働状況を確認して人が確定します。

Q. 問い合わせ本文をそのまま入力できますか?

氏名、住所、識別番号、健康・財産情報などを見直し、目的に不要な情報を削除して、利用条件を確認した環境だけで扱います。

Q. 自動返信で気をつける点は?

受任や回答期限を約束せず、受信確認、営業時間、緊急時の連絡先、担当者確認後に連絡することを明記します。

関連記事と公式情報

関連記事

公式情報