行きたい場所はあるのに、ちょうどよい時間の移動手段がない。家族に送迎を頼むにも気を使う。地域交通の課題は、単に車を呼べるアプリがないことではなく、限られた車両と運転者で多様な移動をどう支えるかにあります。
公開事例:掛川市のCHAIのり号
掛川市の2026年8月20日更新の案内では、AIオンデマンド交通「CHAIのり号」が、アプリや電話の予約を集約し、ルートと運行を調整する仕組みとして説明されています。
同ページは、令和7年度の実証を経た桜木地区の本格運行と、一部エリアの実証拡大を2026年10月1日から行う予定として案内しています。本記事の確認日である2026年9月6日時点では、その10月開始部分を既に実施済みの成果として扱いません。
ここはAIの利用が公式に説明されている事例です。ただし、会話を生成するAIと、制約の中で配車を組む技術は同じものではありません。
結論:予約を集める仕組みと、実際に走る体制を一緒に考える
利用希望をまとめるだけでは移動は成立しません。運行区域、乗降場所、定員、車椅子への対応、運転者、運行時間、費用を定めます。
AIが効率のよい組み合わせを出しても、必ず希望時刻に乗れるとは限りません。予約成立の条件と、取れなかったときの案内が必要です。
富士市で考える想定例:通院と買い物の移動相談
以下は架空の検討例で、富士市の実施計画ではありません。ある地区で、通院や買い物の移動希望を調査するとします。
電話窓口とWebで、出発地のおおまかなエリア、目的地、希望する到着時刻、必要な車両条件を受け付けます。最初は配車を実行せず、既存の交通機関で対応できるものと、時間が合わないものを担当者が整理します。
AIは自由文を項目へ整理する補助に使えます。ただし、実際の運行最適化は交通事業者と検証した仕組みで行い、会話AIへ自由にルートや到着時刻を作らせません。
マッチングで守るべき条件
目的地へ着く時間
乗車時刻だけでなく、到着の制約を確認します。診療予約などがある場合も、所要時間の推測だけで間に合うと保証しません。
乗降できる場所
近くに見える地点でも、安全に乗降できるとは限りません。道路状況や歩行負担などを運行側が確認します。
車両と利用者の条件
車椅子や介助などの必要条件は、必要な担当者だけが扱います。病名など、配車に不要な情報を広く集めないようにします。
帰りの移動
行きだけ取れて帰れないことも困りごとです。往復の相談と、時間が読めない場合の再予約方法を設計します。
アプリが使えない人を入口で除外しない
掛川市の案内に電話予約があることは、地域プラットフォームを考えるうえで重要な視点です。AIで電話内容を整理する構想でも、本人が日時と場所を確認できるようにします。
認識間違いを訂正できる窓口を残し、音声記録の保存・利用目的を説明します。アプリ利用者だけを見たデータでは、移動に困っている全員の姿は分かりません。
運営費はシステムだけではない
車両、運転者、燃料、保険、コールセンター、車両整備、システム保守が必要です。運賃や自治体負担などの組み合わせは、地域の条件と制度に応じて検討します。
独自サービスを作る場合も、旅客運送に関わる許認可や運行管理を飛ばすことはできません。既存のバス・タクシーとの役割分担を確認し、利用者を奪い合うだけの設計にしないようにします。
成功を乗車人数だけで判断しない
待ち時間、予約できなかった件数、到着制約に合わなかった件数、運行費、電話受付の負担などを記録します。利用の少ない場所がある場合、需要がないのか、案内が届いていないのかを分けて確認します。
効率だけを優先すると、少人数の地区や配慮が必要な利用者が後回しになりかねません。どの水準の移動を地域として確保するかは、人が議論する公共的な判断です。
実務例:「予約できなかった移動」も記録する
地域で試す架空の場面として、通院の帰りに希望時刻の便を予約できなかったケースを考えます。満席、運行区域外、受付時間外などの理由を区別し、案内の問題と供給の不足を分けます。
AIは相談内容の整理を補助できますが、実際に存在しない車両や停留所を案内してはいけません。代替交通を紹介する場合も、時刻や利用条件を確認できる情報に限定します。
利用成立だけを集計すると、移動を諦めた人の課題が見えなくなります。電話受付の相談も含め、個人が特定されない形で不足の傾向を把握します。地域の交通事業者と改善を検討し、AIの導入を理由に運転手や車両の確保という課題を見えなくしないことが大切です。
富士市で試す具体的な予約確認票
地域交通の相談では、出発地と目的地、到着しなければならない時刻、帰りの予定、歩行・車椅子・荷物などの乗降条件、同行者、予約結果の連絡方法を確認します。
たとえば午前10時の診察に行く相談では、9時50分到着では余裕が足りない場合があります。受付担当者は病院の入口、受付に必要な時間、乗降地点からの移動を確認し、AIが出した所要時間だけで「間に合う」と確定しません。帰りの診察終了時刻が読めない場合は、予約変更や再受付の方法も事前に伝えます。
実証では、成立した乗車だけでなく、満席、区域外、受付時間外、車両条件不一致など、利用できなかった理由も記録します。AIは理由の分類を補助できますが、増便、区域変更、運賃、交通事業者との分担は運営主体が判断します。
よくある質問
Q. AIなら車両を減らしても大丈夫ですか?
一律には言えません。需要、待ち時間、運行制約を検証する必要があります。
Q. 生成AIで配車すればよいのですか?
違います。運行条件を守る仕組みと、交通事業者による検証が必要です。
Q. スマートフォンがない人は?
電話や窓口など別の入口を用意し、同じ条件で受付できるよう検討します。
Q. 最初にすることは?
新しいアプリの開発ではなく、移動希望と既存交通で満たせない理由の調査です。
関連記事と公式情報
まとめ:移動の希望を拾い、走れる条件とつなぐ
FUJI PRESSでは、富士市の地域課題に対し、情報整理や相談受付でAIが補助できる範囲を考えます。交通の実運用は、自治体や交通事業者など適切な主体との検討が前提です。
著者
渡邉 泰弘|FUJI PRESS代表。富士市で飲食店経営に携わり、Webマーケティング、MEO・Instagram運用、SaaS・AIシステム開発に取り組んでいます。
参考情報
掛川市:AIオンデマンド交通 CHAIのり号(2026年8月20日更新、同年9月6日確認)。実証済み部分と10月以降の予定を区別。掲載日以降の運行条件は公式情報で再確認。